エピソード

「放課後プログラム」ではさまざまなドラマがあります。
それは子どもの変化であったり、印象的なシーンであったり。
市民先生と子どもたちのドラマの一部を紹介します。

食のプログラム

「虫だって生きるのに必死なんだ!」
フランス菓子店「ノリエット」の永井パティシエが市民先生になってケーキ作りを教わりました。作っている途中、ケーキに小さな虫がとまりました。「わ~虫がついた~」と嫌がる子どもたち。永井先生は、「こんな小さな虫だって生きるのに必死なんだ、生きるためには食べなきゃならない。だから君たちも一生懸命食べなさい、でも出来るだけ楽しくおいしく食べるために僕みたいな仕事があるんだ」と。真剣なまなざしで、子どもたちはプロの話に耳を傾けていました。

「3分クッキングではいけない・・・」
活動を開始し始めて1年ほどの時、お菓子づくりのプログラムにて、毎週限られた時間の中で子どもたちにきちんとお菓子を完成して持って帰ってもらえるように、私たちはしっかり準備をしていました。人数を把握して、材料を事前に分けて、手順を確認して、と。しかしながら回を重ねるごとに参加する子どもの数は減っていきました。「なぜでしょうか・・・?」という私の問いにあるお母様が教えてくれました。「子どもが、「『簡単すぎてつまらない』と言っています」。そうです、私たちは何でも準備しすぎてしまっていたのです。放課後は本来遊びの時間、失敗したって構わない、出来るだけ子どもに任せてみることに意義があるのです。そのとき以降、放課後プログラムは子どもたちに任せ、大人がそれを見守る、失敗した時のフォローの仕方を教える、という内容になりました。この「3分クッキングの教訓」はその後の活動にとって大変大きなものでした。

「日本地図と少年」
和食プログラムの市民先生である赤坂の名店「魚新」の四分一先生はプログラムの際、必ず日本地図を張り出しました。料理を作るだけでなくその素材となるものがどこの産地かを伝えるためです。料理プログラムに毎回来てくれた少年、彼はお世辞にも運動や勉強が得意なタイプではなかったですが、彼が抜群の実力を発揮したのが「素材の産地当てクイズ」でした。「この魚の産地は?」と先生が問いかけると、正解を連発。普段いかにもおとなしそうなその少年は周りからも「素材王」と呼ばれ、とてもイキイキと料理プログラムを終えました。彼は将来きっと「食」にまつわる仕事に就くだろう、と私たちは考えています。そういう想像をするのがプログラムを開催する私たちの密かな楽しみでもあるのです。

「それは難しすぎる!」
学芸大学にある「RUE DE PASSY」の長島シェフがお菓子づくりプログラムで用意したメニューは「リンゴのコンポート入りチョコレートのタルト」。事前にメニューを聞いた奥様は「それは難しすぎる!」と言ったそうです。子どもには明らかに高度な内容だったのです。長島シェフがそれをメニューに選んだ理由は3つ。フランス語で「クレームパティシェール(パティシエのクリーム)」と呼ばれるほど基礎と考えられる「カスタードクリーム」を使いたかったこと、季節のもの(リンゴ)を使いたかったこと、そして子どもの好きなチョコレートを使いたかったこと。「基礎を大事にしながら旬なものを取り入れ、そしてお客さまの好みに合わせる」まさに長島さんのお菓子に対する考え方そのものが反映されたメニューであったと言えます。子どもたちは見事にその難しいお菓子を作り上げました。当日奥様もプログラムを熱心に手伝ってくださいました。「実は子どもたちにお菓子を教えるのが夢だった」とおっしゃってくれた長島シェフ、熱い思いの込められたプログラムの実現、つながる地域、このようなプログラムが開催出来たことは「放課後NPO」冥利につきる瞬間でありました。

住のプログラム

「師匠と弟子」
1年間かけて2坪ほど2階だての家作りにチャレンジしたこのプログラム。子どもたちに教えてくれる市民先生は大工の田沢さん。まずは工具の使い方を学ぶ「ベンチ作り」です。子どもたちが作ると足の長さが合わず、グラグラしてしまったベンチを、田沢さんがさっと目分量で切ると、ベンチが“ピタッ”と安定しました。子どもたちからは歓声が。それ以来、田沢先生への呼び方が変わりました。「棟梁!棟梁!」と呼ぶようになった子どもたちは、あの瞬間まさに棟梁に「弟子入り」したのです。73歳ですでに現役引退している棟梁も昔の職人時代を思い出したのか、毎回のプログラムを終えると元気に帰っていきました。「しっかりやれ!」「目を離すな、怪我するぞ!」など時には叱られながら建築した「放課後の家」。完成した時、「師匠と弟子たち」は固い握手を交わしました。


「仕切り屋誕生」

いつも仕切っていた6年生が休みのとき。ずっと参加してくれていた3年生が仕切りだしました。小さい子にビスの打ち方を教えたり、全体の進行を気にしたり。はじめの頃は少し不真面目でどこか遠くから眺めていたその子が、自分がトップになり自覚が出たのか急に態度が変わりました。家が完成するまで彼はNEWリーダーとなり、完成したとき「自分たちで作ったんだ!」という表情で嬉しそうに家を見ていました。

スポーツのプログラム

「A君が動いた」
OYAJIダンサーズが初めてやってきた時のこと。HipHopって何だろう?、と20名くらいの子どもたちが集まり、半分は脇で様子を伺っています。そのうち、子どもたちは外へ遊びに行ったり、別の部屋へ移動したりと徐々に減っていきました。でも、迷いながらも残った子どもはHipHopの楽しさを体でわかったようで、真剣そのもの。中にはいつも斜に構えていて何事にも熱心になれないA君もいました。「A君が自分から動いたよ…」。いつも一緒で彼に手を焼いている放課後スタッフの言葉です。A君は変化の一歩を踏み出したのです。


「ルールはありません」

「ドッチビー」とは、「ドッチボール+フリスビー」をあわせた新しいスポーツです。当たっても痛くない柔らかいフリスビーでのドッチボール。新しいスポーツだけにルールは決まっていません。そのフリスビーを利用してサッカーをしようということに。「ねぇどうやるの?」「ルールは?」と聞く子どもたちに、「ルールはありません、自分たちで楽しくなるように考えて」と先生。ある時は「1年生がゴールしないと得点にならない」というルール、またある時は「フリスビーを2枚でやってみたら?」などと次々と新しいルールが誕生。遊びには貪欲な子どもたち、ちょっとしたきっかけで、楽しい遊びが次々と放課後に生まれます。


「プロから学ぶもの」

どんなに物怖じしない子どもにも、「この人にはかなわない・・・」と思う一瞬があります。縄跳びのプロ集団“縄★レンジャー”がやってきたときがそうでした。彼らは世界で活躍するプロのパフォーマンス集団。プログラムのはじめに彼らのパフォーマンスを目の当たりにした子どもたち。口をポカンとあけて見入っていました。プロが繰り出すパフォーマンスの数々と、さらにそれを盛り上げるMC。その後のプログラムで、子どもたちは尊敬の眼差しと、彼らのようになりたい!という憧れで素直に一生懸命縄跳びに取り組んでいました。まさにカッコイイ大人を見る大切さが実感できる出来事でした。

音楽のプログラム

「音楽はハンデを超える」
学校によっては障がい者が多数在籍するところもあります。普段は別々で遊ぶことがほとんどですが、放課後の「音楽プログラム」ではみんな一緒です。初めに使い古しの台所用品をたくさん持ち込んで、鍋やお玉で好き放題に音を奏でます。食器で音を鳴らす、普段やってはいけないことをやるのも放課後ならではの楽しみ、好き勝手に鳴らしているうちに、リズムが生まれ、歌を歌う子や踊りだす子が出て、大盛り上がり。最後はアフリカの太鼓「ジャンベ」を使って輪になって演奏。輪になって奏でることに健常者も障がい者もありません、みんなでひとつ、改めて感じる音楽の力。見守り涙ぐむ放課後スタッフもいました。

文化

「雰囲気を察する子どもたち」
放課後のプログラムでは「雰囲気を出すこと」も大切な準備。お茶のプログラムでは、和室をお借りし、実際のお茶のセットをばっちりセッティング、そして先生は着物を着て子どもたちを迎えました。そこへワイワイとお茶の部屋に入ってきた子どもたち。ところがその雰囲気に急にシーンと黙り、ちゃんと正座をして席に着き、お茶を学ぶ姿がありました。子どもたちなりに、「これは静かに何かをする場なんだ・・」と感じ取ったことがよくわかった瞬間でした。

学び

「マッチの本数はみな同じ?」
「おもしろサイエンス」の通称“カバゴン先生”はプログラムの冒頭に新品のマッチ箱を配りました。子どもたちが1つずつ箱に入っているマッチの本数を数えます。すると・・・、「52本」「47本」「45本」。なんと本数がそれぞれ違うのです! マッチ箱は新品なのになぜ??。ちょっとした感動が生まれた瞬間です。「これホントかな?」、「これなんでだろう?」、そんなちょっとした好奇心をもって世の中を見てみよう!それが「理科の本質」なのだ、とカバゴン先生は教えてくれました。


「正解から納得解へ」
弁護士の市民先生が教えてくれるのは「裁判」です。低学年に模擬裁判ができるのか?と思っていた私たち。裁判には学校の問題のように「これが正解!」というのがないのです。だからなお難しい。ところがふたを開けてみると、鋭い意見が連発。中には被告人に対して「あなたがやったんですか?」と微笑ましい質問もあったものの、大人扮する目撃者や被告人は子どもたちの鋭い意見にたじたじでした。子どもたちは大人にない視点で物事を考え、大人の想像以上にちゃんと物事を見つめる力があるのです。「今日の裁判は無罪になりました。でもこれは初めから決まっていた答えではありません。また絶対に正しいかどうかも分かりません。学校の授業では1+1=2というように正解のある問題が多くて誰かが答えを教えてくれると思います。だけど世の中に出ると答えがない問題ばかりになります。答えがないからみんなで最も正しそうな答えを考えるのです。それが「納得解」です。だからみんなも世の中も出来事に対して、「私ならこう思う」という納得解を考える習慣をつけてください。」弁護士の市民先生ならではの大事なメッセージでした。

遊び

「これって究極の遊び!?」
大道芸の代表格「パントマイム」の歴史は古代ギリシャに遡ります。パントマイムで使う道具は、自分の手・足・体。何も道具がなくても成立する「究極の遊び」です。まずは、プロのパフォーマーの先生の「壁」、「歯磨き」、「お掃除」などのパントマイムにみんな熱狂しました。その後は輪になってみんなで自由にパントマイム! 子どもたちが作った「ちょうちょ」や「虫」や「花」などのパントマイムを、今度はプロの先生が学んで帰りました。プロも子どもたちから学ぶのです。

表現

「人生で一番楽しかった“うんてい”」
アップルジャパン株式会社の協力のもと、生まれた時からの子どもの写真を親子で1枚のDVDアルバムにまとめるこのプログラム。小さい頃からの写真を振り返りながら、Macを使いそれを編集して文字をいれたり音楽をつけたりしてアルバムを制作します。同時に当日行うのが「子どもインタビュー」。子どもに別室に来てもらい1人ずつインタビューをします。「お父さん・お母さんの好きなところは?」「今までいちばん楽しかったことは?」「クリスマスプレゼントに何がほしい?」などなど。「今まででいちばん楽しかったことは?」に対して多かったのは、なんと「“うんてい”が出来るようになったこと!」。全く予想だにしない答えに笑っていると、なぜかそう答える子が複数。人生最大のイベント、一番人気は“うんてい”でした。これはおそらく、「出来なかったものが出来るようになった達成感」「誰も手伝えない状況で自分自身の腕だけで乗り越えた手ごたえ」「適度な難しさ」このようなことなのだろうと思います。「好きになれるものを見つけて自分で努力し、失敗を繰り返しながらも達成していくこと」これが子どもの成長エンジンであり、放課後プログラムのテーマなのだと改めて思いました。そんな子どもの「今の言葉」も大事に記録された「想い出アルバム」、子どもにとっても親にとっても一生の宝ものになってほしいと思います。